対話力をつけていくためには、相手に伝わる話し方をすることが大切です。初級の間は、自分の本物の情報を伝えること、そのことによって、伝える楽しさを感じ取ること、を目標として対話力の指導をします。初級の指導で、相手に向かって本物の情報を伝えるという対話力の基本が身に付いたら、中級以降の指導では、伝わる話し方とはどういうことかを意識化し、ていねいに情報を発信していく力を育成していきます。そのためには

  1. 区切りの意識化
  2. への字の発音
  3. アクセントの核の意識化

が大切です。

日本びっくり体験

 『私の国では、一人でご飯を食べに行くことはあまりありませんが、日本では一人でご飯を食べに行く人が多いです。一人でカラオケをする人もいるそうです。集団行動が多いと言われる日本で、このような「一人上手」がいることに驚きました。でも、今では私も、「一人上手」を楽しんでいます。』

  (『伝わる発音が身に付く!にほんご話し方トレーニング』p.16,17 アスク出版(2015)より引用)

この意見を、聴いている人に伝わるように、つまり対話的にスピーチするための指導は、どうしたらいいでしょうか。

まず、学生が内容をよく理解するために、教師は、意味が伝わるような範読をし、学生の共感を得るようにします。

次に、どこで区切るか、またフレーズ全体の読みがへの字(上がって下がる)になるように、手の動作で示します。と同時に、「いる」「する」のような2拍の動詞が頭高型にならないように、すなわち、「い」が低く「る」が高くなる、また、「す」が低く「る」が高くなるように、手で高低を示すことが大切です。

「私の国では/一人でご飯を食べに行(「い」が低く「く」が高くなるように手で高低を示す)こ

とは/あまりありませんが/日本では/一人でご飯を食べに行く人も/多いです」 

「一人上手」のような2語の連合ではアクセントの核が2語目の第一拍に移動することを意識化させる指導も大切です。「一人」(中高型)「上手」(尾高型)ですが、「一人上手」ではアクセントの核が「じょ」に移動します。

発音の指導をするときは、信念をもって、正しい発音になるまで直し、正しく発音できるようになったら、「よくなりました!」と正のフィードバックを与えることが有効です。途中で妥協してしまっては、効果がありません。

 正しい発音で意見が伝えられるようになったら、感情をこめて伝えられるように、表情をつけていきます。すなわち、「今では、私も、「一人上手」を楽しんでいます」のところでは、「楽しんでいる」ことが伝わるように明るい声で話します。これが「表情」です。

次にペアワークでこの文章を10分で暗記し、ペアで発表します。発表の時には、ペアで向き合って、目を見ながら発表することで、「対話」していることが形式からもわかるようにします。

その次は、この文章の形式を使って、今度は自分の「日本びっくり体験」を伝える活動です。教師は例を示しながら、学生の「日本びっくり体験」を引き出します。

ごみの分別/ごみの持ち帰り/電車内では静かにする/たばこのポイ捨てをしない/自転車は駐輪場にとめる/などです。

学生はそれらの例と対話しながら、自らの体験と内的対話を始めます。10分の時間を与え、自分の体験を経験として文章化する活動を行います。発表はやはりペアで、相手に伝える形式で行います。

 10分間の静かな緊張に満ちた内的対話の後、ペアでの発表は本物の発表になりました。

中国人同士の発表です。

『わたしの国では餃子とごはんを一緒に食べることはありませんが、日本では餃子とごはんを一緒に食べます。ラーメンと一緒に食べる人もいます。最初は、炭水化物を一緒に食べることに驚きました。でも、今では、私も、餃子とごはんを一緒にたべることを楽しんでいます。』

『わたしの国では、女装する男性はいませんが、日本では女装する男性がいます。化粧する男性もいます。最初はびっくりしました。でも、今では、女装する男性、化粧する男性を見ることを楽しんでいます。』

            2021年11月2日