授業を考える時、教師は、この教科書にある文法形式をどう教えるかに意識を集中しがちです。「て形」をどう教えるか、「ない形」をどう教えるかというふうに。

コロナで三蜜(密閉・密集・密接)を避ける、社会的距離social distance)をとることが当たり前のこととなり、顔はマスクでおおわれることが日常となりました。

対面授業ができなくなり、オンライン授業を経験して気づいた私の中の大きな変化があります。それは、私の中に「授業の目的は、他者に関心をもち、他者の表現を敬意をもって受け入れ、自分を誠実に表現することをとおして、授業参加のアイデンティティを確立していくこと」という信念(ビリーフ)が生まれたことです。

目標に向けての授業の設計方法を「バックワード・デザイン(backward design:逆向き設計)」と言います。

バックワード・デザインでは、卒業あるいは修了時に「何ができるようになってほしいか」「何を身につけておいてほしいか」という教育成果を考えることからスタートします。次に、「できるようになってほしいことが、どのくらいできるようになったのか」を測定するための評価方法を考えます。評価方法があれば、到達目標がどれだけ達成できたのかを測ることが可能になります。そのうえで、どのような教材を使用し、どのような授業を行うのか」を考えます。

このプロセスを経ることによって、「求められている目標(教育成果)」「承認できる証拠(評価方法)」「学習経験と指導計画(どのような学習体験を学習者に与えるのか/どのような指導をするのか)」が指導者に意識化できます。

私は2021年9月から始めた『中国からの未入国学生向けオンライン授業』で、バックワード・デザインを意識したコース設計を行いました。

目標は1.対話を中心にしてBICS(生活言語能力)をつける。2.聴く力と対話力をつける。3.オンライン授業に求められる良い学習習慣を身につける。4.正確な発音を身につける。5.日本についての情報と対話し、日本に興味を持つ

です。これに向けて、指導計画としては、1.作文指導による学習経験と2.教職員紹介との対話による学習経験、を立てました。評価法は、学生の作文を活用した対話練習です。

作文のテーマは、1.自己紹介、2.週末、3.私の一週間、4.家族と仕事、5.場所の紹介、6.私の趣味、7.人物の紹介、を行いました。

教職員の紹介も5回行いました。学生は熱心に質問をしていました。最後の日は事務のリン先生でした。目前に迫った来日(オミクロン型で延期になりましたが)に向けて、日本の生活について、永住権についてなど熱心に質問していました。

当初の5つの目標、1.対話を中心にしてBICS(生活言語能力)をつける。2.聴く力と対話力をつける。3.オンライン授業に求められる良い学習習慣を身につける。4.正確な発音を身につける。5.日本についての情報と対話し、日本に興味を持つ、は達成されました。何よりも最終日の笑顔がそのことを物語っていました。

参考文献 

横溝紳一郎・山田智久(2019)『日本語教師のためのアクティブ・ラーニング』くろしお出版