💛focus on forms という考え方

言語の2要素は、内容(meaning:コミュニケーション)と形式(form:文法)です。

まず文型を教えるという教授方法focus on formsについて考えてみましょう。例えば、きょうは「~は~です」を勉強しますと言う教え方はfocus on formの考え方に基づいています。この教え方の問題点はfluency developmentが難しいということです。つまり一生懸命機械的な練習をつんでも、なかなか流暢にならないということです。また、自分の言いたいことではないので、人間のもつ根源的欲求である自律性への欲求が満たされないことです。

💛focus on meaning

コミュニケ―ションの成立を目指すコミュニカティブ・アプローチはfocus on meaning の考え方に基づいています。意味を重視する教え方は、自分の言いたいことがあるときには人間のもつ自律性の欲求が満たされます。また人に伝えることで関係性の欲求も満たされます。この教え方の問題点は、文法形式が学ばれにくい可能性があり、正確さにかけてしまうことです。正確さがないと、人間のもつコンピテンスの欲求が満たされなくなります。

💛focus on formという考え方

Long .M.(1991)はこの2つの教え方の問題点を補う方法として、focus on form という教授法をデザインしました。意味に注目した活動を行う過程をとおして、自己表現を行い、誤用を直すことをとおして、文法形式を習得させる方法です。この方法だと、自分の言いたいことが言えるとう自律性の欲求、正しく伝わったというコンピテンスの欲求、そして伝えたい他者とかかわれたという関係性の欲求がみたされることになります。この3つの欲求がみたされたとき、人はエンゲージメントの感覚が得られ動機づけが高まるといいます。

💛日本語学校でも文型練習はfocus on formの考え方が多い

日本語学校の日本語教育では、大学院・大学・専門学校進学を目指して、日本留学試験(EJU)で250点以上をとること、日本語能力試験N2(日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる)に合格することが目標になります。そのために、この試験で問われる「文型」を詰め込む教育が行われる傾向にあります。つまりfocus on formに基づいた教育です。学習者は試験合格のために「文型」を暗記しなければならないという外発的な動機で勉強するようになってしまいます。これでは自律性への欲求が満たされません。

💛focus on formの学習デザイン

私はこの10か月、意識的に、「文型」の授業を、focus on formの考え方に立ってデザインし、実践してみました。

🌹授業デザイン

1.中級教科書(中級日本語『東京外国語大学留学生日本語教育センター』)の本文に出てきた文型を、「これはどういうときに使うか」「この文型で何を伝えらえるか」を中心に説明する。

2.学生は、その文型を使って自分の表現したい「意味世界」を表現する。このとき辞書は使わない。

3.教師は白板に学生の名前を書く。学生に白板に書くことを動機づける。タイマー10分設定。

4.学生は作れたら自主的に自分の意味世界を表す文を白板に書く。

5.教師はクラスの学生たちに、その学生が表現しようとした意味世界に注目させる。自分の意味世界が表現できたていたら正のフィードバックを与える。学生の表現した意味世界に注目しながら、より適切な言語形式を教える。

💛実践報告

10か月の実践を通して、学生は確実に成長しました。

1.meaning focused output(自分の言いたいことを表現しようとする姿勢)が身に付く。これは『誠実さ』が身に付いたことでもあります。

2.language focused learning(言いたいことを適切に表現できる形式・語彙を学ぼうとする姿勢)が身に付く。これは『勤勉性』が身に付いたことでもあります。

昨日(2022年2月17日)の実践の一部分です。

1.(ふつう形)一方だ。

 *説明:一つの方向に進む(よくない方向)が多い

 *学生の文

教科書の例文に、「数年前土地の値段は上がる一方だったが、最近は下がっているそうだ。」という例文がありました。これを自分の意味世界(コロナによる留学生数の減少)にあてはめて文を作りました。

学生の文:『三年前、日本来る留学生は上がる一方だったが、最近は下がっているそうだ。』

                 上がっていたが、     下がる一方だそうだ

教師の「よくない方向に使う」という説明が学習者のこころに届いていなかったことがわかったので、「説明が十分ではなかったです」といって謝ってから、そこに注目させて説明をしました。すると、学生全員にlanguage focused learning の姿勢が見られました。

学生「ああ、そうですか。いま、よくわかりました。」

2.(A文)と言えるかどうか。

*説明一般的には(S文)と思われているが、私はそう思わない、と主張するとき。そう考える根拠ものべる。

*学生の文 将来ボディービルダーを目指していて、大学はスポーツ科学を志望している学生の文。いつも体に関する文を作ります。

『ある人は筋肉の増加にとって栄養はいちばん重要だと言っているが、ほんとうに栄養は重要だと言えるかどうか。フィットネス愛好家の中でトレーニングしても筋肉が増えない人もいる』

彼の意味世界に沿って、「トレーニングしても」ではなく「栄養をとっても」にしました。

白板に注目する学生たち

学生「なるほど、そうですね」と言って、すぐノートにメモしました。

💛学生の成長

10か月の教育実践によって、「文型」学習においても、『meaning focused output』,『language focused learning』の姿勢が育まれていくことが実証されました。それは自分の意味世界を表現しようとする『誠実さ』、意味世界を表現するためのより適切な文法形式・語彙を学ぼうとする『勤勉性』が身に付いたことでもあります。

💛学び続ける教師として

これからも、学生に自分の意味世界を表現しようとする姿勢、文法形式・語彙について自分の意味世界と関連して学ぶ姿勢がみにつく授業デザインを目指して、実践を積み重ね、授業を改善していこうと思います。

参考文献

1.鹿毛雅治(2022)『モチベーションの心理学』中公新書

2.平山允子(2022)「実践ちょっと見7 Meaning-focused Input, Meaning-focused output, Fluency Development を組み込んだ学習のデザインと実践」2022年度日本語教育振興協会研究大会

3.Long, M. (1991). Focus on Form: A Design Feature in Language Teaching Methodology. In K. De Bot, R. Ginsberg, & C. Kramsch (Eds.), Foreign Language Research in Cross-Cultural Perspectives (pp. 39-52). Amsterdam: John Benjamins.

 

focus on formによる文型指導