第90回では和洋女子大学日本語教員養成課程の1年目の<日本語教授法>について報告しました。

それに続く第91回では、2年目の<日本語教育実習>について報告します。こちらも20年目の今年で最後です。今まで200人以上の日本語教員資格者を育成してきました。多くの出逢いに感謝です。

2024年度は17名の学生が日本語教育実習を履修しました。このうち2022年度日本語教授法・日本語教育教材受講生が7名(昨年は留学したり、必修と重なって日本語教育実習が受講できなかった学生)、2023年度日本語教授法・日本語教育教材受講生が9名、1名は特別に日本語教授法と同時履修している学生です。

自己紹介の課題は、

1.日本語教授法・日本語教育教材を受講してこころに残ったこと

2.日本語教授法・日本語教育教材を受講して変容したこと

3.日本語教育実習の目標

2022年度に受講して、1年あいてしまった学生が、<こころに残ったこと>として覚えていたのは、「自分がプレゼンテーションで何を発表したか」でした。ここでも第90回でふれた学びの深さのICAPモデルがエビデンスとして実証されました。Interactiveな内容は1年を超えても心に残っているということです。

昨年受講した学生は、「対話とは何か、対話が学びの契機となる」ということと、「複言語主義」。

昨年履修して、自分の考えは全く変わりました。複言語主義。自己開示をするために、母語を使い相手が翻訳して、他者に伝える手段は、自身の留学経験から共感する部分でした。言語学習において相手をリスペクトすることはとても重要だと考えます。リスペクトできれば、両者が対話をする上で自信を持つことができるのだと気づきました」。これには昨年度履修した学生が、「私も全く変わりました。本当に共感します」と述べていました。

これは、昨年度わたくしが複言語主義について深く学び、複言語主義に基づく日本語教育を行って、そのエビデンスに深く学んだこと、それを実践例とともに、学生に対話的に伝えたからだと思います。

『複言語主義に基づいた言語学習の目的は、多様な他者を社会的存在として認め、多様な<日本語>を認め、他者に向けての寛容性を養うこと。その言語でできなかったら母語で自分を表現し、クラスの仲間に仲介してもらえばいいのです。そうすれば、自分に自信をもつことができます。仲介者は他者に貢献することができます。そして、一生続く言語学習への自律性動機づけが育まれます。言語学習の結果、その言語が嫌いになるのはかなしいです。言語学習の結果、他者を遠ざけるようになるのは、かなしいことです。言語学習は平和のためでなければならないのです』と。

この日は、対話実習の相手である2-1クラスの自己紹介の発表の様子の動画と写真を見せました。ワイワイガヤガヤの明るい雰囲気、あたたかい雰囲気・・・という笑顔が、実習生のあいだに広がっていきました。対話実習に向けての自律的動機づけが育まれていっていると感じました。

 

やはり3回の授業を終えて、manabaのアンケート機能を利用して次の投げかけをしました。

「4月26日の授業に対話的に参加して、対話実習に向けてどのような気持ちになりましたか。対話実習に向けてこれから準備しようと思っていること、対話実習に向けての抱負などを3点書いてください」

 

ここでは4名の学生の回答を引きます。

 

💛K.M.さん

1.対話実習に向けて、積極的にグループワークに参加したり、今まで以上に倉八先生のお言葉一つひとつに耳を傾け、実習の際に何か取り入れられるようにしたいと思っています。

2.そして実習では、幅広い世代の方々とお逢いできるのが楽しみです。自身が英語圏に留学した当初、母語話者を相手に話すとき、とても緊張したことを覚えています。しかし相手が、私自身をリスペクトして対話してくれることで、英語を話すことに自信がつきました。なので、対話実習の際は、私も相手をリスペクトして対話を行い、相手が日本語を話すことに自信を感じられるような対話を心がけたいです。

3.授業をイメージし、学んでいる人にとって何が必要なのかを、グループで意識し構成したいです。授業内などでプレゼンをした経験はありますが、他者に何かを伝える形は今まで経験したことがないので念入りに準備をして後悔のない実習にしたいです。

 

💛O.S.さん

・加藤さんと小嶺さんの自己紹介では、今まで授業で学んだことを自分の中に落とし込み、深く考え、今後に活かそうとする姿勢が伝わりました。このような素晴らしい2人の姿勢を見習って実習に望みたいと思いました。

・「対話実習では自分が話を回さなければならない」「うまく話せなかったらどうしよう」と不安に思っていましたが、留学生の実際の様子を見て、柔らかい雰囲気の中楽しそうに活動していたため、少し心が軽くなり、実際に留学生と話すのが楽しみになりました。

・対話実習に向けて、話のテーマや会話の流れなどしっかり準備したいと思いました。しかし、準備したものをただこなすのではなく、一人ひとりと向き合い、対話を意識して交流できるようにしたいと思いました。そして、誰もが発言しやすい雰囲気づくりもしていきたいです。

 

💛D.N.さん

授業を通して、対話実習に向けて「一方通行」ではなく「対話」をしてよい実習にしたいと考えています。

昨年に、留学生と交流する機会がありました。その際に様々なことを話して、感じたことが文化理解の大切さです。自分と異なる国の人と接するうえで、話の始まりや内容は相手の文化を積極的に調べたりすることで見つけられると思います。このことから、自分の国の文化理解、紹介できるような文化の情報を集めて準備をしたいと思っています。また、それを活かして、丁寧な教案を作って準備したいと思います。

 

💛A.N.さん

一度しかない対話実習で、どのようなものか想像できず、留学生の方々としっかりコミュニケーションが取れるかどうか不安でしたが、今日の授業内の動画を見て、少し緊張が和らぎました。授業の様子を見てまずはじめに感じたこととして、クラスの雰囲気がとても良いなと感じました。そして、みんな黙ってプレゼンを聞いているのではなく、リアクションをしていて、授業がしやすそうなクラスだと感じました。自分のなかでまだまだ緊張はありますが、そんなに固く構える必要はなさそうだと今日の授業を通して感じました。事前に出来る準備をしっかりと行い、実りある対話実習にしたいです。

 

🌹留学生に対しても、日本人学生に対しても、同じように、複言語主義に学んだ考え方で、他者へのリスペクトをもって記号接地がおこるような対話的かかわりをしていきたいと、今回もこころから感じました。

対話実習を行う2-1クラスの留学生たち

 

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武悦豊さんの自己紹介