考えを「ことば」にすることは自分にとって考える土台を築くとともに、他者にそのことを伝え、他者が考えを築く土台となるものです。ジョハリの窓でいえば、自分にとっての「開放の窓」を他者に対して開くこと、そして自分にとっての「未知の窓」を他者から開かれることになります。

プレゼンテーションが共生・社会構築のための<プレゼンテーション>になるためには、

1.他者に対して「何を」伝えたいか、「どうして」それを伝えたいか<テーマ>を考える。<テーマ>」は自分のアイデンティティにつながるものである必要がある。

2.<テーマ>について知識をていねいに、こころを込めて調べる。

3.<やさしい日本語>伝わる日本語で書く。

4.わたしはこのテーマについて知っているから<伝える>という伝達ではなく、対等な他者として、<やさしい日本語>で伝わるように伝える。

5.他者につたわるように

(1)疑問詞で語りかける

(2)聴衆をよくみる

(3)テクニカルタームはわかりやすくていねい、ゆっくりと。聴き手の様子をみて母語も使う。

(4)聴衆にとって新しい知識となること

(5)自分の考えが表現されていること。

 

私は今学期、どのクラスでも自分のアイデンティティとつながった<テーマ>を伝えるプレゼンテーションを行っています。これは、東京富士語学院の卒業クラス2-2、2-4、2-5、和洋女子大学日本語教員養成課程の「日本語教育教材」のクラスでも行っています。その様子を伝えると、お互いにクラスを超えて、「学びあい」が起こります。和洋女子大学のアンケートに書かれた感想は

*日本人でも難しいのに留学生は本当にすばらしい。

*なぜ外国語でこんな発表や作文ができるのだろう

*<テーマ>について本当によく考えている

*ていねいに準備して、字もきれいですてきです。

など。

私は日本人、外国人のちがいではなく、<テーマ>についていかに準備し、考えたかがプレゼンテーションにあらわれるのだということを、説明すると、日本人学生もそのことに気がついていきます。

「いままで、考えていなかった」「ただ、発表していただけだった。」「目的意識をもって来日している留学生の学びはほんとうに<学び>になっている」など。

きょうは「お正月」について丁寧に調べて発表した中国人学生、李俊辰さんの発表を紹介します。便箋5枚に丁寧に振り仮名も振られて、丁寧な字で準備されていました。

対話的な伝えかた、語り掛けかたも、彼女らしい、やさしく、ていねいでした。

その後、「すばらしい。どうやって調べたのですか」「中国のお正月と日本のお正月とどちらが好きですか」「お正月の食べ物で何が好きですか」など、対話の輪が広がっていきました。

もう一人は羅奇さん。アイデンティティについて深く考察し、彼は『日本の近代文学』をテーマに選びました。そして、日本の近代文学の流れについて説明し、耽美派の谷崎潤一郎の「痴人の愛」について内容と自分の考えを伝えてくれました。

「すばらしい。痴人、ナオミズムについてどう思いますか」

「小説の中では美しいと思う」

 

「どうして、日本文学をテーマにしたのですか」

「ぼくは日本語しかできないから。ほかの専門がないから」

 

対話が続いていきました。

2-4クラスの新疆ウイグルのディリレバさんは「私の趣味―旅行」というタイトルで、新疆ウイグルの魅力を美しいパワーポイントで伝えてくれました。2-4クラスの仲間たちは、ディリレバさんの対話的プレゼンテーションと美しいパワーポイントに魅せられ、新疆ウイグルに惹きつけられていきました。

「ぜひいってみたいです!!!」

「ディリレバさんのうちにとまってもいいですか?」

「もちろんです!!」

クリックして動画をごらんください。

ディリレバさんの発表『旅行』

プレゼンテーションをとおして、彼・彼女たちのアイデンティティにつながるテーマが育まれていっています。これからも彼・彼女たちのテーマに寄り添って、プレゼンテーションを続けていきたいと思います。