🌹日本語学習者を社会的存在としてとらえる教育実践

2021年10月に出された『日本語教育の参照枠』(文化審議会国語分科会)では、日本語教育の3つの柱として

1.日本語学習者を社会的存在としてとらえる

2.言語を使って「できること」に注目する

3.多様な日本語使用を尊重する

が打ち出されました。

わたしは、『日本語学習者を社会的存在としてとらえる』ことをresearch questionとして教育実践を重ねてきました。一人の人を「社会的存在として捉えることの大切さ、それによって意欲が発達し、社会的発達(他者への敬意)、認知的発達(日本語の対話力)、人格的発達(自律性・寛容性・利他性)がもたらされることはエヴィデンスとして示されています。

「社会と教室を隔てることなく、学習者一人ひとりの豊かな多様性を生かし、日本語を通した学びの場を人と人が出会う社会そのものとすることによって、共生社会の実現を目指す」

1-7クラスでこのことを目指そうと、アクションリサーチを試みました。

💛 目標 CEFR A2 レベル

1.ごく基本的な個人情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使われる文や表現が理解できる。

2.自分の背景や身の回りの状況や、直接的な必要性のある領域の事柄を簡単な言葉で説明できる。

💛実践方法

1.日本語を通した学びの場(教室)を人と人が出会う社会そのものとするために

*学びあう協働体を作る:必ず、名前で呼びあう。あいさつをする。相手への関心を言葉で表現する

*自分の本物の情報(個人情報・家族情報・買い物・近所・アルバイト・日本語の勉強など)を開示する

2.一人ひとり異なる状況に応じた学びを支えるために

*週末には自己表現を行う作文を書く

*教師がわかりやすい日本語訂正し、教師が音読したものを録音し、発音練習をして、発表する

*伝わるように、伝え、クラスの仲間は内容と対話しながら傾聴する

3.日本社会に溶け込むために

*金曜日はフィールドワークの時間とし、学校の周辺を散策したり、公共施設を尋ね、日本文化・日本語での対話の環境を作った

4.教室をあたたかい空間とするために

*授業を構造化する

 

日本語を通した学びの場(教室)を人と人が出会う社会そのものとするために

自己開示の対話の内容(1-10課まで)

1課 自己紹介・挨拶 1)名前 2)出身地 3)年齢 4)誕生日 5)日本み来た目的 7)出身地
2課 それぞれの持ち物 これはだれのケータイですか。
3課 学校・家の紹介 女のトイレ/男のトイレ/○○教室/職員室。○○さんの家はどこですか。
4課 開館時間を尋ねる 墨田区役所/曳舟図書館/すみだ日本語ボランティア教室
5課 交通手段を尋ねる ○○さん、なんで学校へ来ますか。
6課 誘う ○○さん、一緒に節分の浅草寺に行きませんか。
7課 プレゼント ○○さん、子どもの時、おかあさんに何を上げましたか。
8課 感想を言う ○○さん、日本の生活はどうですか。日本語の勉強はどうですか。
9課 理由を言う ○○さん、どうして日本へ来ましたか。
10課 家の周りのようす ○○さん、家の近くに何がありますか。

2.一人ひとり異なる状況に応じた学びを支えるために   作文:自己との対話→他者へ伝える

作文1 自己紹介
作文2 私の一日
作文3 東京富士語学院
作文4 私のうち
作文5 私の家族
作文6 1-7クラス
作文7 私の好きなこと

3.日本社会に溶け込むために 向島界隈の散策と対話

活動1 浅草寺
活動2 言問団子
活動3 向島百花園
活動4 今戸神社
活動5 東武博物館
活動6 東京国立博物館

 

4.授業を構造化するために

毎日の授業の流れを同じにする

1)あいさつ  「おはようございます」「〇〇さん、元気ですか」

2)対話   みんなで聞き合う

例:12課 「〇〇さん、肉と魚とどちらが好きですか」 →「肉が好きです」

「じゃあ、肉でなにがいちばんすきですか」→「鶏肉です」

「どうやって食べますか」           →「焼き鳥です」

3)漢字   漢字300で毎日5つ対話的に導入

例えば色  「○○さんは、何色がいちばん好きですか」

4)会話   教科書の各課の会話

絵で導入→教科書を見ないで、聞く

全員でテープの後について練習→ペアで練習→発表

5)表現練習  い形容詞・な形容詞をひとつずつ言う

意味ある文を作る。個人差に応じて、作る。学生同士は対話的に反応を返す

例:さむい、楽しい、おもしろい、おいしい・・・・・・

学生が作った分 きのうの晩、肉のあんかけを作りました。おいしかったです。

 

5.学生に見られる変化

1)教師からみた変化

*生き生きした表情

*遅刻をしない

*他者を信頼するようになる

*仲間に対する寛容性

*あたたかい空間

*勉強が楽しいという認知

*真剣な学び

 

2)学生の認識

*3週目に質問

『日本語の勉強でどれがいちばん好きですか』『どうしてですか』

対話(聞く・話す) 漢字  会話  文法  作文  課外活動  宿題

*学生の回答

『課外活動が好きです(4人) 『遊ぶのは楽しいですから』

『先生と交流できますから』

『日本文化がわかりますから』

『話すのが好きです(3人) 『話すのは楽しいですから』

『会話が好きです(3人)  『みんなの会話は楽しいですから

『聞くのが好きです(2人)  『日本語の音はかわいいですから』

『聞くがよくなると、日本の映画がわかりますから』

『文法が好きです(1人)   『挑戦的ですから』

『漢字が好きです(1人)   『見るのは中国と同じで、安心ですから』

『全部好きです(1人)    『日本語は楽しいですから』

 

最終試験(3月16日)の作文

学生たちの伝えたい、対話したい、という姿勢が伝わってきました。中国語を交えて伝えてくれた学生もいました。対話(聴くこと・話すこと)の大切さは確実に伝わりました。全員の作文を載せられたらと思いますが、4人の作文を紹介します。

今日は3月16日です。時間は早いですね。あさっては春休みですね。私は今学期にたくさん知識を勉強しました。倉八先生に感謝したいです。先生は親切ですね。いい授業の方法があります。私たち一生懸命勉強しています。春休み、復習したり予習したりしたいです。来学期は4月7日です。

実は私はこの時を早く見たいです。先生とクラスメートと一緒に勉強したいです。N2を欲しいですが、急がば回れですね。わたしは来学期にたくさん知識が勉強したい。たとえば、日本の文化や歴史など。先生、教えてください。もう一度、どうぞよろしくお願いします。

 

 東京富士語学院はいい学校です。先生は親切と面白いです。みんなは明るいと面白いです。私は校外学習が好きです。特に東武博物館、日本の電車はすごいです。東京富士語学院の毎日は楽しいです。ありがとうございます。私は来学期日本語を勉強します。これは来学期の目標です。よろしくお願いします。

 

 今学期は終わります。倉八先生におれを言います。日本語はとても難しいと思います。特に、聞くこと、話すことです。作文も同じです。

来学期の目標は勤勉な勉強します。言葉を暗記して、文法を暗記します。練習、聞くと話すことです。私の努力はいい結果があります。先生に対話ができます。

倉八先生は来学期もわたしたちに授業することほしいです。倉八順子先生、どうもありがとうございました。

 

楽しい時間は短暫です。私はとても楽しいです。でも日本語は下手です。私はとても幸運は遇先生とクラスメート。先生は誠真負責。私はとても感謝です。来学期への期待な更加努力勉強します日本語です。日本語上手ですから、倉八先生交談、友だち・・・

どのの作文からもやさしさと楽しさが伝わってきました。