2023年4月14日(金)2023年度の和洋女子大学日本語教員養成課程の日本語教授法の授業がスタートしました。そして、7月28日(金)に15回の講義を終えました。2023年9月22日(金)日本語教育教材の授業がスタートし、1月19日(金)14回の講義を終え、1月26日(金)レポートを提出して、1年の講義が終わります。

今年度13名の学生が集まってきました。その動機はいろいろでした。資格をとりたいという<外発的>なものが多かったです。

私は、コロナ禍で高校時代をすごして、他者のことばを<聴く力>、他者に向けて<話す力>が育まれにくかったように感じられた13人の学生に対して、5つの目標を立て、授業を設計しました。

1.多文化共生の心性、他者へのレスペクトを育む

2.他者と対話的に<聴く力>、他者と対話的に<話す力>を育む

3.本を対話的に<読む力>を育む

4.身体に接地したことば(ハルテッド)、<やさしい日本語>を使う

5.自律的動機づけを育む

 

2024年1月19日、私自身が30回の授業を振り返り(省察し)、ていないなことばで私の想いを語りました。そして、原稿用紙と30分の時間と与え、彼女たちに、1年の省察の作文を記号接地したことばで綴ってもらいました。30分は十分ではなかったようでしたが、13人の学生たちは自分と向き合って、記号接地した文を綴りました。静謐な空間がひろがりました。どの文章にも本物性が感じられました。学生のみなさんに敬意を表します。

ここでは、5人の学生の文を引きます。

💗K.S.さん

『私はこの一年間を通して、新しい考え方をもちました。一年前の私は多文化共生を理解しているつもりでした。しかし、日本語教授法、日本語教育教材の授業で学び、多文化共生にはお互いの尊重が大切だとわかりました。自分の当たり前は相手の当たり前ではないことをよく認識させられました。また、やさしい日本語はお互いに尊重し合いながら、生活していくたまえに必要なものだとわかりました。実際にアルバイトをしている時、私は日本語が母語ではない方によく接客します。地元の和食屋なので観光客よりも日本に住んでいる人のほうが多いです。そのため、英語よりもやさしい日本語のほうが伝わりやすいのではないかと思いました。授業や本で学んでから、出来るだけやさしい日本語で話せるよう心掛けています。しかし、実際に使ってみると、とても難しいと感じました。このような経験や授業を通して、自分の日本語のなさに気づかされました。授業では日本語教師の魅力を知り、何度も日本語教師になって、日本語を学んでいる人の助けになり、心地よい居場所を作ってあげたいと思いました。また、私も海外から来た方の考え方やことばを尊重し、社会や地域の多文化共生を築いていく手伝いをしたいなと思います。まだ、自分の語学や知識量には自信が持てませんが、日本語教師はとても魅力的な仕事だと思いました。一年を通して、自分の考え方が大きく変わり、将来やりたいことも分かってきました。とても魅力的な授業でした。』

 

💗H.I.さん

『日本語教授法・日本語教育教材を受講して成長したことは、聴く力がついたことです。プレゼンの時や先生が写真や動画を紹介してくださる時などに自分の意見を言うことで、「しっかり聴こう」とする意識が高まり、聴く力がつきました。また、頭で考えていることをその場で簡単に発表することで考えを言葉で表す力もつきました。この授業ではプレゼンテーションをすく機会がいくつかあったので、人前で話すことに少しずつ慣れることができました。一番最初に行ったプレゼンの時はすごく緊張して、文章ばかりを見て周りを見ることができませんでした。しかし、回数を重ねることで緊張も少しずつほぐれていったので自信を持って周りを見ながら出来るようになりました。とはいえ、まだまだ改善することはたくさんあるので、これからも頑張っていきたいです。

この一年間の気持ちの変化として、受講する理由や意欲です。2年生の初めのころは、せっかく人文学部で日本語を学ぶから形として資格をとっておこうという気持ちでした。しかし、学んでいくにつれ、日本語教師の魅力や学びのおもしろさを感じています。この一年間を通して、様々なことを学び、知識を身に付けることが出来たのでとても充実していました。この学びや経験を活かして頑張りたいです。』

 

💗M.T.さん

『私は、この1年間を通して自分自身が成長したと感じるところは、人前に立って発表するときにあまり緊張しなくなったことです。2年生になってから格段に発表することが増えたので落ち着いて自分の考えが述べられるようになりました。また、日本語教授法・日本語教育教材で、皆の発表を聞いて「よくわかりました。ありがとうございます。」と言って感想を述べたり、倉八先生の話を聞いて感想を述べる機会が多く、これまでにあまりない事だったので傾聴するということが身に付いたのと同時に、自分はこれまであまり人の話を聞いていなかったんだということに気づかされました。この先も対話する姿勢で授業に臨もうと心に決めました。また、本を読む事にたくさんのメリットがあるということを改めて実感しました。語彙が身に付き、自分のものにすると幅広く自己表現をすることが出来たり、教養が身に付くことで、様々な文化や習慣、考え方を受け入れられるような広い器や、あたたかい心が自然と形成されていくのだなと思いました。常に自分の知識量に慢心せず、物事を自分の価値観で測らないよう、今後も知識に富んだ教養深い人間になりたいと思います。加えて、日本で培ってきた知識と合わせて、その知識をどう海外の人に広めるか、教えるかということも、今後学んでいきたいと思います。一年間、ありがとうございました。』

 

💗R.T.さん

『日本語教授法・日本語教育教材を受講してみて、私が成長したと思うことは2つあります。

1つ目多文化共生について理解が深まったことです。先生がこの専門だからもありますが、授業外でも意識するようになりました。私は、今までに海外へ行ったことがなく、マスメディアなどでしか触れる機会がないので、香港から留学に来た学生との交流は、自分の中で一気に成長したと実感した時でした。

2つ目は、「対話」的になったことです。受講する前は、静かに日本語教員になるためのことを学ぶと考えていました。しかし、先生はどんどん学生に問いかけるスタイルで、私はとても驚き、戸惑いました。生きて来た中でこんなに発言したことがなかったからです。最初は、私の性格上普段と違うことをすると緊張してしまうから、やりたくないと思っていました。ですが、人は慣れてしまえば、緊張することが少なくなりました。まだ発言する時は、緊張してしまいますが、発言をする意識が高くなりました。相手のことを知りたい、知ってほしいと思うことができたのは、この授業のおかげだと思います。

この授業を受けたことで、文章力、スピーチ力、対話を高めることができました。苦手意識が高かったことを下げることができました。ありがとうございました。』

 

💗M.N.さん

『この授業を受講しようと思ったきっかけは日本語教師という職業に興味をもったからでした。授業を受けるにつれ、自分の考え方が変わっていきました。

以前の私は、完璧に物事を行うべきという考えで、間違いを恐れていました。また、日本語教師に大事なものを、理解できていませんでした。倉八先生の授業で一番印象に残ったのは「対話的に話す」です。人前で何かを発表する際、単に発表していた私は、対話的な発表を目標に練習しました。その結果、相手の理解度もあがり、伝えたいことを自分の言葉で、しっかり伝えることが出来るようになりました。また、倉八先生の東京富士語学院の生徒たちとの接し方や教え方を初めて見た時、対話的に話すことで、クラスの士気が上がっていると感じました。失敗を恐れないことが大事だとも気が付きました。

この授業では、動画や文章を見て、聞いた後に、どう感じたかを聞かれます。最初は戸惑いましたが、自分の意見を人前で発表することで、自分自身の評価に繋がったり、自信にも繋がりました。また、他の人の意見から、多くの事を学び、相互理解や自身に取り入れ、学びがさらに深まりました。何にでも正しいものはなく、重要なのはどう考え、自分はどうしたらいいのかだと気付きました。さらには、人や文化に優越はなく、相手を知り、互いに理解し、共存することが今後大事になってくると気付くことができました。』

 

参考文献にあげた、本たちにヒントを得て、また、私と学びを共にしてくれた多くの留学生・学生たちにヒントを得て、みなさんに向けて授業を設計し、みなさんと向き合って授業を行い、省察するというプロセスを、丹念に、積み重ねています。

これからも、学びつづけながら、多文化共生社会を構成する人たちの成長に寄り添っていけたらと思います。

 

参考文献

庵功雄(2016)『やさしい日本語―多文化共生社会へ』岩波新書

今井むつみ・秋田喜美(2023)『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』中公新書

鹿毛雅治(2022)『モチベーションの心理学 「やる気」と「意欲」のメカニズム』中公新書

倉八順子(2021)『「日本語教師」という仕事 多文化と対話する「ことば」を育む』明石書店

玉置太郎(2023)『移民の子どもの隣に座る 大阪・ミナミの「教室」から』朝日新聞社