11名の共立女子大学日本語教員養成課程のみなさんそして指導教授の菅生早千江先生、東京富士語学院2-4クラスに来てくださってありがとうございました。今年度、初めて、日本語教員養成課程の指導教授でいらっしゃる菅生早千江先生と、協働で、教壇実習・対話実習を企画しました。そして菅生先生がていねいに準備してくださって、教壇実習・対話実習を実施することができました。菅生先生にこころから感謝いたします。

みなさんと対話的取り組みをした4日間は、私にとって、対話についてさらに考えるよい機会となりました。1日目がAグループの対話実習、2日目がAグループの教壇実習とBグループの対話実習、3日目がBグループの教壇実習とCグループの対話実習、4日目がCグループの教壇実習でした。

日本語教室の小径を書き始めたのは、2021年7月、それから3年2か月で100回を重ねることになりました。100回という一つの区切りに、実習生のみなさんへ語り掛けるかたちで、実習を振り返り、私の<対話>への思いを整理しておこうと思います。

Aグループのみなさんの、熱心で、ういういしい取り組みをみて、私は対話の原点にもどり、自分自身に問う思いで、対話への思いを伝えました。

・授業を<対話的>にするには、どうしたらいいのだろう

・説明を<対話的>にするにはどうしたらいいのだろう

・学習者のからだを動かすことば<記号接地したことば>にするにはどうしたらいいのだろう

・そして、passive(聞いているだけ)→active(メモや付箋をつける)→constructive(人に説明できる)→interactive(対話的に複数の人と新しい知識を構築する()の順に学びが深まってく『ICAP理論』(ミキ・チー教授の理論)についても、話をしました。

Aグループの教育実践とそれを受けての振り返りを経て、実習生に気づきが生まれ、<対話的>への意識の芽生えが生まれていました。翌日のBグループの授業実践からこの一日の間にさらに考え、教案を練り直したことがうかがわれました。

・学習者の名前を呼ぶ

・目標の明示

・対話的なモデル会話の導入

・白板を活用しての板書

・対話的な机間巡視

・授業の構造化

これらは、学習者に<対話的に聴こうとする意志>をはぐくみました。白板に書きながらの説明が学習者の視聴率をあげました。

机間巡視を対話的に行う、学習者一人ひとりに発言をうながすは、教室をあたたかいものに変えました。授業が構造化し、体系的になっていました。実習生がそれぞれの役割を果たし、協働的に授業をつくりあげていきました。

全体的に、学びをはぐくむ緊張感ある授業になっていました。何よりも実習生が楽しそうに、かつ、緊張感をもってやっていたのがよかったです。

Cグループの対話実習は、総まとめの役をしっかり果たし、より対話的に、学習者一人ひとりに寄り添ったものになっていました。

この4日間をとおして、みなさんが考え、成長し、変容していったことが、よく伝わってきて、わたしのこころをあたたかくしました。指導教授として取り組まれた、菅生先生も、最終日にははじけるような笑顔になっていました。

20世紀のロシアの哲学者バフチンは、文化的衝突から来る摩擦や葛藤を創造性に変えるものとして対話(ダイアローグ)を挙げたうえで、摩擦や葛藤を正面から見据え、積極的に相互作用に向かおうとする勇気を与えるものが、自己と他者の変革を引き起こす内的なかかわりによる<対話的能動性>であるとしました。

「それは、質問し、応答し、同意し、反駁する能動性であった、すなわち、対話的な能動性である。(中略)人間自身に徹底的に自己を開示させ、自己自身を裁かせ、自己自身を論悪させる」(バフチン『ことば 対話 テキスト』p.247)。

そして、対話によって、自己がすでにもっていた見解や立場を変えることが可能になり、その結果、相互が豊饒化する、と説いています。

「あらゆる内的なものは自足することなく、外部に向けられ、対話化される。いかなる内的経験も境界にあらわれ、他者と出会う。この緊張に満ちた出会いの中に、内的経験の全本質が存する。(中略)彼の全存在は常に境界にあり、自己の内面を見ることはすなわち他者の眼を見ること、あるいは他者の眼で見ることなのである」前掲書p.250。

多文化社会という文化間の相互依存関係において大切なのは、摩擦や葛藤を回避するという態度ではなく、摩擦や葛藤を恐れず、緊張や葛藤に耐え、積極的に文化とのかかわりを生きようとする勇気と力をもつこと、すなわち、バフチンの言う『対話的能動性』をもつことだと、私は考え続けています。

今回の教壇実習に、他者(菅生先生)と協働して取り組むことによって得たもの、それは、『対話は人を豊饒化する』という私の信念を裏付けるものとなりました。

共立女子大学日本語教員養成課程との出会いに、こころから、感謝します。

みなさん、ありがとうございました。対話を続けていってください。そして、いつの日か、日本語教師になってくださいね。

 

参考文献

倉八順子(2001)『多文化共生にひらく対話 その心理学的プロセス』明石書店

為末大・今井むつみ(2023)『ことば 身体 学び』扶桑社新書

バフチン(1988)『ことば 対話 テキスト』ミハイル・バフチン著作集8 新谷敬三郎・伊東一郎・佐々木寛訳 新時代社